いつもは自分の世界に没頭し、人間など眼中になさそうな彼女だった。名前は「ミカ」。短い毛並みが特徴的な、どこにでもいるような茶色い猫。しかし、その日は違った。
部屋の隅のベッドに横たわる私を、ミカがじっと見つめている。普段は自分のことで手一杯な彼女が、なぜか私のそばを離れようとしない。風邪で寝込んでいる私の側に、小さな体を寄せてくるのだ。
「ミカ……どうしたの？」
声をかけてみるものの、彼女はただ静かに私を見上げ、小さな頭を私の手にすり寄せる。いつもは独立心が強く、自由気ままな彼女が、今日に限って異常に甘えん坊になっている。
普段の彼女ならば、朝のうちに外へと冒険に出かけてしまい、夜まで帰ってこないことも珍しくない。しかし、今日は違った。窓辺に寄り添いながら外を眺めるものの、一歩も外に出ようとはしない。その瞳は、時折私の方を振り返り、私がまだベッドにいることを確認すると、安堵の息をついたように見えた。
熱でぼんやりとした頭の中で、私は考える。ミカはただの猫ではない、もっと何か特別な存在なのかもしれない。人間の言葉は理解できないはずなのに、彼女は私が体調不良であることを何となく察しているのだろうか。
時折、彼女は小さな前足で私の手を優しく押す。その温かさが、熱で冷え切った私の心を少しずつ溶かしていく。ミカがそばにいるおかげで、孤独感が和らぎ、心強く感じられた。
夜が更けていくにつれ、部屋は静かになり、ミカの安定した呼吸だけが聞こえる。彼女の存在が、まるで見守る天使のように感じられた瞬間だった。風邪で体調が優れない中でも、ミカのおかげで心が温まり、少しずつ回復していくのを感じた。
いつしか私も眠りにつき、目覚めたときには、ミカはいつの間にか私の足元で丸くなって寝ていた。彼女のその小さな姿からは想像もつかないほどの大きな安心感と温もりをもらい、改めて彼女の存在の大きさを実感する。
彼女はただの家族ではなく、私にとってかけがえのない存在だった。この小さな奇跡が、日常の中でどれほど大切なものかを、私はこの時深く感じ入ったのだった。
