ある冬の夜、雪が静かに降り積もる小さな村で、一人の老婆が生活していた。老婆は村で一番年をとった人物であり、彼女のもとには時折、村人たちが訪れては様々な悩み事を相談に来た。老婆はいつも温かく迎え入れ、賢明な助言を与えていた。
老婆の家は村のはずれにあり、その周囲は古い杉の木々に囲まれていた。家は古びていても、いつも暖かい光が窓から漏れており、訪れる者に安心感を与えていた。
ある夜、突然、老婆の家の扉を叩く音が響いた。老婆が扉を開けると、外は一面の雪景色で、そこには一人の若い男が立っていた。男は遠くから来た旅人で、雪に迷い込んでしまったと言いった。老婆は彼を暖かく迎え入れ、夜が明けるまで家で休むようにと勧めた。
男は老婆の優しさに感謝し、リビングの暖炉の前で体を温め始めた。その夜、老婆は男に不思議な話を聞かせた。それは、この村に伝わる古い言い伝えで、村のはずれの家には、人の心を見透かすことができると言われる「心読み」が住んでいるのだと老婆は語った。
旅人はその話に興味津々で、老婆にその「心読み」についてもっと詳しく知りたいと頼んだ。老婆は微笑みながら、その「心読み」は人間の真の意図や隠された感情を読み取ることができ、悪意を持つ者を遠ざけ、善良な心を持つ者を守る力があると語った。
夜が更け、旅人はその話に深く考え込んでいた。そして、ふと老婆を見ると、老婆の目が不思議な輝きを放っていることに気づいた。その瞬間、旅人の心に恐怖がよぎった。彼は、この老婆こそが「心読み」であり、自分の心の中を見透かされているのではないかと感じたのだった。
しかし、老婆は優しく微笑み、何も言わずに旅人を安心させた。朝が来て、旅人は礼を言って老婆の家を後にした。しかし、村を離れる時、彼は背後に不思議な感覚を覚え、振り返ると老婆の家はどこにも見当たらなかった。彼が訪れた場所には、ただ古い杉の木々が静かに雪を纏って立っているだけだった。
