深い森の中に、古くから伝わる魔女の家があった。その魔女の名はアイリンで、彼女は森の生き物たちと調和を保ちながら、様々な魔法と薬を作ることで知られていた。
アイリンは特に、癒しと保護の魔法が得意で、森を訪れる旅人や、病で苦しむ者たちにその薬を分け与えていた。彼女の作る薬は、天然の草花や鉱石、さらには星の光までもが材料となっており、その効果は確かであった。しかし、その力は悪用される危険も孕んでおり、アイリンは常に警戒していた。
ある日、見知らぬ旅人がアイリンの元を訪れた。彼は重病の家族を救いたいと訴え、アイリンに薬を乞うた。彼の話には心を打たれるものがあり、アイリンは薬を与えようと考えた。しかし、彼女は森での長い歳月を通じて人間の心の奥底を見抜く力を持っていた。旅人の言葉の裏に隠された嘘や悪意に気づき、彼女は慎重に行動することにした。
アイリンは旅人に会話を持ちかけ、話の中で矛盾を見つけ出すことに成功した。彼が述べた家族の病状と、求める薬の効能が一致しないことに彼女は気づいた。そして、最も決定的だったのは、彼の目の奥に宿る冷たい欲望だった。
彼女は静かに立ち上がり、旅人に向かって言った。「あなたの求めるものは、私が与えられる薬ではないようですね。本当に助けを求める者には手を差し伸べますが、あなたの目的は別のところにあるようです」
旅人は言葉を失い、しばらくしてから激しい怒りをあらわにした。しかしアイリンは動じることなく、彼女の手には既に防御の魔法が準備されていた。彼女は魔法を使い、旅人を森から追放した。その魔法の力は優しく、しかし確かなもので、旅人は森の外へと押し出された。
アイリンは再び静かに薬草に向き合い、真の癒しを求める者のためにその日の作業を続けた。森は再び平和を取り戻し、アイリンの知恵と力が再び森を守ったのであった。
