ある晴れた日曜日、小さな家の前に一台の車が止まった。車から降りてきたのは、中年の夫婦とその娘、そして年老いた盲導犬「ハル」だった。
「ここが新しいお家だよ、ハル」
娘の明るい声に、ハルはゆっくりと尻尾を振った。彼の目は見えないが、新しい家族の優しさは心で感じ取れた。
ハルは長い間、盲目の主人を支え続けた盲導犬だった。しかし、年齢と共に彼自身も目が見えなくなり、引退を余儀なくされた。それから彼を引き取ったのが、この家族だった。
家の中に入ると、ハルは新しい環境に少し緊張している様子を見せた。家族はそんなハルに優しく声をかけ、家の中を一緒に歩き、彼が安心できるよう努めた。
「ここが君のベッドだよ、ハル」
父親がそう言うと、ハルはゆっくりとベッドに近づき、匂いを嗅いでからその上に身を横たえた。
数日が経ち、ハルは少しずつ新しい環境に慣れてきた。家族との散歩が日課となり、特に娘との絆は深まっていった。
「ハル、こっちだよ」
娘の声に耳を傾けながら、ハルは信頼を置く彼女についていく。見えない世界を一緒に歩むことが、ハルにとっての新たな幸せとなった。
日が沈む頃、家族はリビングでくつろいでいた。ハルも彼らの足元で静かに時を過ごしている。家族の笑顔と暖かさが、ハルの心を満たしていく。
「ハル、ありがとね。これからも一緒にいようね」
娘がそう囁くと、ハルは優しく尻尾を振り、彼女の手を舐めた。言葉は交わせなくても、その気持ちはしっかりと伝わった。
引退した盲導犬と家族との新たな生活は始まったばかりだが、ハルはこれまでの役割を超えた、新しい「光」を見つけたのだった。
