ある冬の夜、町は銀色の月光に包まれていた。その町のはずれに小さな古い屋敷がある。屋敷は、かつて栄えた豪家のものであったが、今は寂れ、誰も住んでいないとされていた。しかし、町の人々は、夜な夜なその屋敷から人の気配や物音がすると噂していた。
一人の少年がその話に興味を持ち、夜の屋敷を探検することに決めた。彼は勇敢だが、好奇心の強さが彼を常にトラブルに導くタイプだった。少年は、夜の帳が完全に下りた後、懐中電灯一つを手に屋敷へと向かった。屋敷に近づくにつれ、彼の心臓の鼓動は早くなり、手に持つ懐中電灯の光が震えていた。
屋敷の扉を押し開けると、かすかな風が廊下を吹き抜け、彼の顔を撫でた。その冷たさに少し息を呑むが、彼は意を決して中へ踏み込んだ。屋敷の内部は想像以上に荒廃しており、壁紙ははがれ落ち、床はきしむ音を立てていた。
彼が廊下を進むにつれて、ふと、上の階から女性の歌声が聞こえてきた。声は美しく、悲しげで、少年はその声に引き寄せられるように階段を上がった。階段の途中で、彼はふと立ち止まり、恐怖と好奇心の間で心が揺れた。
上に到達すると、音は一つの扉から聞こえていた。少年はゆっくりとその扉に手をかけ、開けた。部屋の中には、長い黒髪の女性が背を向けて窓際に座っていた。彼女は月の光を浴びながら静かに歌っていたが、少年が入ると歌を止め、ゆっくりと振り返った。
彼女の顔は、見る者を引き込む美しさであったが、その瞳はどこか哀しみに満ちていた。彼女は少年に気づくと、一瞬で消えた。少年は部屋に一人残され、窓から差し込む月の光だけが彼女がいた証だった。
その夜、少年は何も言わずに屋敷を後にした。そして、彼は二度とその屋敷に足を踏み入れることはなかった。町の人々は、少年がその夜見たものについて尋ねたが、彼はただ、美しい歌声を聞いたとだけ答えた。
