ある暗い夜、私は友達に誘われて古びた洋館を訪れた。噂によると、この洋館には幽霊が出るという。友達はスリルを求めていたが、私はただの付き合いで、幽霊など信じていなかった。
洋館の中は思ったよりも薄暗く、足元に注意しながら進んでいた。それでも、友達はワクワクしているようで、次々と部屋を覗き込んでいた。私は怖がりながらも、友達を追いかけていた。
と、その時だった。背後からふわりと冷たい風が吹き抜ける。振り返ると、そこには白い衣を纏った女性の幽霊が浮かんでいた。友達は悲鳴を上げてどこかへ逃げてしまったが、私はその場に凍りついて動けなくなってしまった。
「お前を呪う……」
幽霊の声は冷たく、私の心臓は凍りついた。しかし、ここで何もしなければ、本当に呪われてしまう。そう考えた私は、必死になって幽霊に説得を試みた。
「ちょ、ちょっと待ってください！ 呪う前に一つだけ！」
幽霊は一瞬、その場で浮かんだまま動きを止める。
「何だ？」
意外にも幽霊は話を聞いてくれるようだった。私はすかさず言葉を続けた。
「実はですね、私、幽霊が出るって聞いても、信じない方なんですよ。でも、今日あなたに会えて、幽霊って本当にいるんだなって思いました。なので、もし呪うなら、幽霊についてもっと勉強させてからにしてもらえませんか？」
幽霊は一瞬、言葉を失っていたが、やがて小さく笑い声をあげた。
「お前、面白い人間だな。よし、勉強させてやろう。でも、その代わりに一つだけ条件がある」
私は何を言われるのかと身構えた。
「この洋館の掃除を手伝ってくれ。ここ数百年、誰も掃除してくれなかったからな」
「ぜひ手伝わせてください！」
呪われないなら何でもいい。私は承諾し、その日から幽霊と共に洋館の掃除を始めた。このまま逃げてしまおうかとも思ったが、幽霊の力がどこまで及ぶかわからず、毎日洋館に通ってしまった。掃除をしながら、幽霊は自分の話や幽霊にまつわる知識を教えてくれた。
掃除が終わる頃には、私たちはなんとも言えない友情のようなものを感じていた。幽霊は最後にこう言った。
「お前のような人間に会えてよかった。これで安心して成仏できる」
そして、白い光に包まれると、幽霊はこの世から消えていった。
私はその後も洋館を訪れたが、もう幽霊は出なかった。しかし、その洋館には今でも暖かい何かが残っているように感じるのだった。
