春のある日、中学生の少女、ミナコは学校から帰宅した。リビングのテーブルの上に、開けられたばかりのお菓子の箱が置いてあるのを見つけた。それは、彼女の大好きなチョコレートクッキーだった。
「お母さん、兄ちゃん来てた？」ミナコはキッチンで夕飯の準備をしている母親に声をかけた。彼女の兄、タクヤは既に社会人で一人暮らしをしており、年が離れているため、二人の間にはそれほど親密な関係はなかった。タクヤが実家に来るときは、ミナコが学校に行っている間であることが多く、直接顔を合わせることは少なかった。
「うん、お昼過ぎにちょっとね」母親が答えた。
ミナコはクッキーを一つ手に取りながら、ふと思った。「兄ちゃん、このクッキー、よほど好きなんだろうね」
「あら、あの子、甘いものはあまり好きじゃないのよ」
母親の意外な言葉にミナコは驚いた。「本当に？」
「覚えてない？ 最初にそのクッキーを買ってきたとき、ミナコがとても喜んで食べてたでしょ。だからずっと同じものを買ってきてるみたい」
ミナコは驚いた。兄が自分のために、好きでもないお菓子を選んでくれていたなんて。何年もの間、ただ兄が好きだから買ってきていると思っていたクッキーが、実は自分への思いやりから選ばれていたとは。
その瞬間、ミナコの心は温かな感情で満たされた。兄との距離を感じていた彼女だったが、この小さな発見が二人の関係を新たな光で照らした。彼女は決めた、次に兄と会えたら、このクッキーの話をしてみることに。感謝の気持ちを伝え、もしかしたらもう少し兄との距離を縮めることができるかもしれないと思った。
日が暮れる頃、ミナコは窓の外を見ながら、兄との次の出会いを心待ちにしていた。彼女にとって、このチョコレートクッキーはただのお菓子ではなく、兄からの大切なメッセージだった。そして、これからはそのメッセージを大切にしながら、もっと兄のことを知ろうとする機会を持つことにした。
