バレンタインデーの朝、空は晴れわたり、街は恋の予感でいっぱいだった。寒い冬の空気の中、息を白くしながら自転車をこぐ少女、彩花は緊張と期待で胸がいっぱいだ。今日は彼にチョコレートを渡す大切な日である。自転車のカゴには、大事に包んだチョコレートが入っている。リボンで飾られたその小さな箱は、彩花の気持ちを詰め込んだ宝物だった。
彩花はいつも通り学校へと向かう道を走っていたが、心はどこか遠くを飛んでいた。彼が喜んでくれるか、どんな顔をするか、想像するだけで心が躍る。しかし、同時に不安もあった。もし、彼が受け取ってくれなかったらという不安である。
「いや、大丈夫！」と自分に言い聞かせながら、彩花はペダルを強く踏みしめた。その時、横から道に入ってきた自転車に気づいた。それは彼、陽斗であった。陽斗も彩花に気づき、少し驚いた表情を浮かべながらも、優しい笑顔を見せた。
「おはよう、彩花」陽斗が明るく声をかける。
「おはよう、陽斗くん。あのね……」彩花は勇気を出して、カゴの中のチョコレートを取り出した。「バレンタインだから、これ、受け取ってほしいなって」
陽斗は少し驚いた顔をした後、嬉しそうに微笑んだ。「ありがとう、彩花。すごく嬉しいよ」
陽斗の自転車のカゴに、彩花は見覚えのあるものを見つけた。それは、彩花がチョコレートを包んだときに使ったものと同じリボンだった。
「それ、私が使ったリボンと同じだね？」彩花が驚いて尋ねると、陽斗は照れくさそうに頷いた。「実はね、彩花にも何かあげたくて。でも、チョコレートは無理だから、このリボンで何か作ろうと思って」
陽斗は自転車のカゴから小さなハンドメイドのキーホルダーを取り出した。それは彩花が使ったリボンとなじもので作られている、心のこもったプレゼントだった。
「これ、僕からのバレンタインのプレゼントだよ。同じリボンなのは偶然だけど」陽斗が渡しながら言った。
彩花は驚きと喜びで目を輝かせ、「ありがとう、陽斗くん。大切にするね」と答えた。二人はその場で少し話をし、笑顔を交わした。そして、再び自転車に乗り、一緒に学校へ向かった。彩花の心には、バレンタインデーの特別な思い出が強く残ったのだった。
